八郎太郎の棲み家


むがし あったど。

鹿渡の村さこぎたねゃ服装した若げ者(八郎太郎)一人ふらついできて、「一晩げ泊めでけれ」って、あっちこつちの家さ頼んだのス。
したけ、どの家も「なんとへばいいべか。あば」「やざね」だの「お父、追ってやれ」だのて村中の人だその若げ者どご、めんどみねがたど。

そのうち暗くなったベス。したけ、天瀬川のある爺っちやと婆の家さ尋ねで来て、「腹へってなもかもね。一晩げ泊めでけれ」って願ったけゃ、二人とも「へば 泊まれんひ」て泊めでやるごどしのたシ。  

したば、このばど着た山みでな若げ者、台所さ ジャッカリあがてきて、「ああ寒びであ。ああ寒であ」ってふるえるもんだがら、爺っちゃ 木の根っこくべで熱ぐしてやったど。婆は婆で皿鉢の飯あぐれたげ盛ってやったば、その皿鉢の飯デロッと食べて、ままんで バケモノみでにふんどしのぞがせで、そのままごうごうて鼾かで、ゴロッと寝でしまったと。 爺っちゃも婆も、気味わりくて早く寝だのシ。                   

夜間になったけ、この若げ者 二人どご起ごして涙ここぼして、「よぐ泊めでけだなや。感謝すであ。ほんとにえがった。オエーン、オエーン」って泣で、まだ さべるなだど。「今晩 一番鶏鳴だらこなだり、じらっと しっちゃこっちゃなって、大ぎだ湖になるがも知えね。して、その時 俺どご追った七つの村の人達、ひで目にあうべね。さあ、二人とも時間だてがら、長者森(三倉鼻)さ逃げてけれな」 したけ、いっつのこまにその若げ者 大蛇になったのだと。なんぼ 爺っちゃと婆どでんしたべがね。

して、その大蛇ナ、天さ届ぐように一声あげだけ、ドードど黒え雲湧ぎおごってきて、ピカピカって稲妻走るのだと。「おもしえであ」大蛇がらそんた声こ出したべし。爺っちゃ 婆の手こけっぱって「はやぐあべ、早ぐ出はれ」って、ごしやぐもだがら婆うろだえで、戸たでて外さ出はたごとえども、途中で苧麻のべっちょこ忘れだのさ気付で 取にもどつたば、ちょうどその時一番鶏コ あっちがらもこつち、からも、ゴキャゴッコーって鳴だなだど。

「あつ あぶね!」って、その大蛇叫んで自分の尾ぱで、婆の尻どしんとけとばしたけゃ、婆はとんだもとんだ葦崎の花谷地(八竜町)まで飛ばされでしまったど。

して、こなだりあっていう間に大ぎだ湖になったのシ。人達はネ湖のあっちゃもこつちゃもさかっぱじして 騒動であったど。その若いげ者どご追った父しゃ、家いだわしどてほいどたげで、柱さたごついで、嬶だ人は夫の六尺褌さたごついだども、そのまんま、湖さ飛ばされで、「冷けであ! 死んてあハ!」って、バタバタあばれて水の底さちもんくて、いったどや。  

それがらだばハ、そごら近所の部落の人達、だれも鶏コ飼わねぐなったのシ。爺っちゃも婆も後ハ会われねでしまったと。

                      とっびんほらりのぷ                 


※爺っちゃは夫権現宮(三倉鼻)に、婆は姥御前神社(八竜町)にそれぞれ別れて祭られている。


八郎潟町史

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